【JGNイベント記念限定公開！2024年4月12日～5月8日15：00】
NURSERIES vol.4
山本花園

山本 茂登さん（左）と拓也さん（右）

　以前は、一般にサルビアというと緋色の花を咲かせ、しばしば夏花壇に一年草扱いで植えられていたスプレンデンス種を指し、他の種類のサルビアを思い浮かべる人は殆どいなかったのではないだろうか。サルビアには実に様々な種類があり、魅力的な宿根草であることを世に知らしめたのは、山本花園の力が大きい。

　千葉県佐倉市の市街地から離れた、林に囲まれた畑が点在する地域に、ハウスが立ち並ぶ。約60種類のサルビアを主力に、ユーフォルビア、多年生ビオラなどさまざまな植物を、約1,000坪のハウスと露地1,500坪で栽培している。

　もともとは、パンジーやハボタンなどの苗を生産していたが、

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　もともとは、パンジーやハボタンなどの苗を生産していたが、22年前にサルビアのレウカンサ種 1（画像は斑入り系統）やミクロフィラ種 2（画像は‘ラズベリーロイヤル’）などに出会い、その種類の多さや多様性、中には香りがあるものもあり、すっかりとりこになってしまったと言う。さまざまなカタログ通販などで種苗を取り寄せて約200坪のハウスから栽培を始めたそう。当時は情報が殆どなかったので、英語の本を紐解いては、学名や耐寒性、開花時期、原生地などを調べた。出荷しようとしたものが花落ちして廃棄したり、本と実際の開花期が異なったりするなど、最初は思うように作れず苦労したが、作りにくいと言われていたアズレア種 3 の鉢物を出荷し、市場に認知されていく。

　自分が楽しくなる、いいものをつくりたい、と話す山本さん。自身が面白いと思ったものを試験的に栽培して、夏越しが難しい種類を除外するなど、美しいだけではなく育てやすい種類を世に送り出している。苗を買って育てた人の心を満たし、幸せを感じて欲しいと常に意識していると言う。趣味家の目線に立っているのだ。開花したときの状態を見せる見本鉢をつくるのも、どのように成長し、花を咲かせるのか、多くの人々に知ってもらうためだと語ってくれた。

　最初の頃は、栽培説明書だけで品種名のラベル無しで出荷していたこともあるが、買う人の混乱を避け、植物の名前を正しく知ってもらうために、流通名だけではなく学名や原産地を表記する、というのが山本さんの流儀だ。

　苗の形状も、画一的なものが良いという市場の常識にとらわれない。例えば茎が横に傾いて伸びたものでも、寄せ植えにマッチしたり、かえって味があると考える人もいて、その人にとっては一番好ましい苗となる。そのようなニッチな需要にも対応している。

　「つくり続けることが大切」と話す山本さん。人気が高まってよく売れるときだけではなく、他の生産者が殆ど生産しなくなっても、欲しい人がいる限りは供給したいと言う。

　自分が良いと思っても、売れないこともある、でもそれは自分のマニアックな選択が悪いのだと笑う。それでも、自分の思ったことをやってきたからこそ、形になったと話してくれた。

山本花園で育てられている、バラエティー豊かなサルビアのごく一部を紹介する。

A クレベランディー種は、透明感のある薄い紫色の花を茎の周りにリング状につける。
全草に清々しい甘い香りがある。草丈は1.5ｍになる。過湿を避け、冬は凍らないように管理するのがポイント。

B マクロフィラ種は鮮やかな青色の花を咲かせ、雄蕊と雌蕊が花の外に飛び出して
いる。葉は大きく香水のような甘い香りを持つ。草丈は90cmほどだが横に広がりやすく、地面に接した茎からは良く発根する。凍結を避ける。

C スプレンデンス種の‘バンヒューティー’は、上品なワインレッドの花が美しい、多年生品種。草丈は1.3m。凍らない程度で管理。

D メキシカーナ種の品種‘ライムライト’は、明るい黄緑色の萼片と青紫色の花との対比が素晴らしい。草丈は1.5ｍになる。耐寒性は、－2～-3℃まで。

E カナリエンシス種は、赤紫色の萼に淡い藤色の花をつけ、気品がある。葉と茎は白い毛に覆われている。草丈は最大1.2mになる。過湿と凍結を避ける。

F ブキャナニー種は、輪数は少ないが、細かい毛に覆われた紅桃色の大きな花が咲く。草丈は60cm。夏の強光は嫌う。冬は凍らない程度で管理。

G グルチノサ種の淡い黄色の花は、上品な良い香りがする。やや湿った土を好み、夏は半日陰の方が良く育つ。草丈は90cmになる。耐寒性は強く-10℃ぐらいまで耐える。

H サギッタタ種は、目がさめるような美しい濃青色の花。茎は横に広がるように伸びる傾向がある。草丈は80ｃｍになる。冬は凍らない程度で管理。

　紙媒体のNURSERIESでは、誌面の都合で掲載できなかった圃場の様子と、山本花園の魅力的な植物たちのうち、来年から本格的な出荷を開始するものも含めたいくつかを紹介する。

圃場の様子 I とハウスの中の様々なカラーリーフプランツ J 。

I 5月下旬の圃場と山本茂登さん

J ハウスの中のカラーリーフプランツたち

　サルビア・スプレンデンス種の‘あやのピーチ’ K は、花弁と萼が淡いピンク色でやさしい色合いが美しい。山本花園で種苗登録したレプタンス種（英名：コバルトセージ） ‘パープルレディ’ L は、基本種の色変わり。品種の英名登録は‘Mountain Book’である。

　最近生産に力を入れているユーフォルビアのうち、‘ゴールデン・レインボウ’ M と‘シルバー・スワン’ N がこちら。斑入りの葉が明るい印象だ。

　シックな葉色のハボタン ‘ブラック・サファイア’ O は、種苗登録申請中で、来年より本格的な出荷を予定している。ヨーロッパブドウ‘プルプレア’ P は、紫がかった銅葉が魅力的で、秋には濃い赤紫色に紅葉する。自家結実性で果実は食べられるが、酸味が強く加工向き。

　これからの目標や夢を伺ったところ、まずはサルビアを中心に生産している植物の見本園を作りたいと答えてくれた。育てたらどのくらいの大きさになるのか、業界人や趣味家に知ってもらうためだ。鉢植えで充実させた株がどのくらい大きくなって、どのように花を咲かせるかは、尺鉢に植えた見本株で想像できるが、地植えは異なる。マドレンシス種は地植えにすると、高さ3メールにもなる。株の大きさや形状によって、耐寒性も異なってくるそうだ。

　サルビアの栽培は息子の拓也さんに任せつつある。自身は数年後に引退したら、交配などを趣味として楽しみながらやっていきたいと語ってくれた。サルビアに魅せられた山本さんがどんな情報を発信し、どんな新品種を作出するのか、目が離せない。(取材：編集部 )